周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」を観に行った。
満員電車内で痴漢をしたとして捕まった青年が、無実を訴える刑事裁判を描いた映画である。
「法廷モノ」の映画やドラマは数多いが、私たち「法曹業界」に身を置く人間は、どうしても事実と違うところに「ツッコミ」を入れてしまいがちである。ドラマの中には、「その法廷は日本やなくて、アメリカの裁判所の法廷やろ!」というものまであるから、「ツッコミ」を入れるのを楽しみに「法廷モノ」を観ている感もある。
しかし、「それボク」には、弁護士の目から見ても、全く「ツッコミ」を入れる余地がない。主人公が「被害者」の女子中学生に捕まえられるところから、検察官・弁護人とのやりとり、判決を言い渡されるところまで、徹頭徹尾のリアルさである。違和感を感じたのは、私たちが普段立っている法廷と、検察官と弁護人が座る席が左右逆というところだけだった(これも、東京と大阪の裁判所で、実際に席が左右逆であるためで、映画は間違いではない)。
映画の後半、その場に居合わせた乗客の女性が名乗り出て、「主人公は痴漢をしていない」と証言してくれる。普通の裁判ドラマなら、これで無罪判決、ハッピーエンドだろう。しかし、結論を言ってしまうと、この映画ではそうはならない。満員電車内の出来事なので他に真犯人がいる可能性だってあるし、実験してみると主人公が犯人だとするには無理のあることが分かったりもするのだが、裁判官は、名乗り出た証人の証言も含め、ことごとく理屈をつけて否定し、有罪判決を言い渡す。この判決がまた、「うわ、こんな判決実際によくあるよ」という言い回しに満ち満ちており、聞いている弁護人の幻滅感まで伝わってくるほどである。この映画を観た弁護士は、間違いなく、みんな暗い気分で映画館を後にしたはずだ。
「それボク」を観た人の多くは、「こんな裁判おかしい」という感想を持っていると思う。しかし、無実を訴えても、ほとんどが有罪になってしまうのが日本の刑事裁判の現実だ。その実態を知ってもらうためだけにでも、この映画は一見の価値がある。
「それでもボクはやってない」公式HP→http://www.soreboku.jp/index.html |