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地方公務員の政治活動の処罰化について(弁護士 城塚健之)

1 現行法の規制と自民党の「改正」案
 2005年5月、自民党は、地方公務員や公立学校教職員等の政治的行為に対して国家公務員なみの懲役刑を含む刑罰規定を導入する「地方公務員の政治的中立性の確保のための地方公務員法等の一部を改正する法律案」を議員立法で提出するとの姿勢を明らかにした(通常国会に提出予定とされていたが、その後の郵政民営化をめぐる混乱の中で提出は見送られた)。
 現行法上、国家公務員は全面的に政治活動が禁止されているのに対し(国公法102条はこれを罰則付で禁止し、その構成要件を人事院規則14−7「政治的行為」に白紙委任している)、地方公務員(一般職)については、地公法36条が一定の政治的行為を禁止しているものの、その範囲は国公法よりもかなり狭く、一部は地域限定(当該公務員の属する自治体区域内に限定)とされ、かつ罰則はない。
 また、同じ地方公務員でも、現業職員・企業職員については、政治的行為は禁止されていない。他方、公立学校教職員については、教育公務員特例法により、国公法と同じ範囲の政治的行為が禁止されているが、罰則はない。
 これは、それぞれの法律の制定(改正)された時期の違いによるものといわれている。現行の国公法上の規制は、2・1ゼネストに示される労働運動の高まりに恐れをなした占領当局のマッカーサー書簡、政令201号を受けた改正によるものである。すなわち、アメリカの世界戦略に基づく戦後の民主化路線の転換、日本が反共の砦として位置づけられる中でもうけられた反憲法的規制が現行国公法なのである。
 こうした規制をめぐっては、これまで幾多の憲法裁判がたたかわれ、団の先人たちが奮闘されてきたことは周知の通りである。しかし、後述の猿払事件最高裁判決等により現行の公務員法上の規制はすべて合憲とされ、法改正は果たされないまま今日に至っている。そして今度は、地方公務員をすべて国家公務員と同じ規制の下に置こうというのが今回の自民党案である。

2 自民党の提案理由
 自民党の提案理由は、自民党「大阪市職員優遇問題調査プロジェクトチーム・山梨県教職員組合問題対策チーム」の答申(平成17年4月6日)に示されている。そこでは、(1)大阪市職員問題等を引き合いに出して、「公務員に対する信頼が大きく揺らいでる」から「政治的中立性を厳格に求めること」が必要であるとし、(2)特に職員団体が「しばしば政治活動や選挙運動を展開することを常態化させて」おり、「勤務条件等をめぐって有利に交渉したいと望む労働組合が、交渉相手のトップを選出する選挙に重大な影響力を行使し、地方行政を地域住民のためではなく、専ら、自らの権益確保のために大きな力を発揮しているという構造自体が問題」であるとして「服務規律を厳格にする」必要があるとする。また、(3)「地方分権の進展により、地方自治体に対する国の関与の度合いが減少する反面、自治体自らの権限と責任が増大する。こうした中、地方公務員の責任もこれまで以上に増大していくことになるので、服務規律確保の要請も国家公務員と同様にすべきである」、(4)「およそ公務員たる身分を有する者が一定の政治勢力を支持する行為を行う場合には、その公務全般の公正さに対する国民の信頼が害されることに変わりはない」こと、「政治的行為の禁止は、実質的には、勤務時間外のときに問題になる」こと、「職員が他の地域において、積極的に政治的行為をするということになると、結局、人事行政の運営において、任命権者に対して様々な影響をもたらし、結果として、その職員が排除せられ、あるいは実力以上に昇進させられるという結果を招く危険がある」ことから地域限定を解除する必要があり、(5)罰則の付与は「立法政策の問題」だからいいのだ、と主張している。
 このように、自民党の論理は、荒れ狂っている公務員バッシングに乗じて、公務員が優遇されるのは、地方公務員組合が政治活動を行い、自らが支持する首長を当選させているからこれを規制すべき、というものであり、かなりの程度、国民受けする議論になっているといえよう。

3 自民党のねらい
 それでは、この時期、このような法案を準備した自民党のねらいは何か。新聞報道等では、これは民主党の支持基盤である自治労・日教組叩きであり、党利党略に出たものだとの論評がなされている。それは一面においては正しい。実際、衆院選をめぐっても、自民党が格好の攻撃材料としているのに対し、民主党は大阪市労連(自治労)から距離を置いているとの報道もなされている。
 しかし、それだけでこの問題をとらえるのは誤っている。総選挙のマニフェスト合戦を見ても、自民党も民主党も、公務員の大幅削減を打ち出しており、その立場に根本的な相違はない。民主党は明らかに脱労組に向けて動いている。
 地方公務員の政治的行為禁止の真のねらいは、地方行政を支えている公務員のあり方を変質させるところにある。有事法制に代表される大国主義的改革の担い手として、また、市場化テストに代表される新自由主義改革の担い手として、地方公務員を機能させるためには、お上にたてつく権能を剥奪しておく必要がある。そして、そのためには、何よりも労働組合の抵抗力を奪う必要がある。
 一連の公務員バッシング自体、市場化テストを推進するための政治的キャンペーンにほかならない。公務員はだめだ、だから民間(市場)にすべてを委ねよという論法である。郵政しかり、大阪市しかり、社会保険庁しかり。それは、かつて国鉄分割民営化の過程で展開された国労・全動労に対するヤミカラポカ攻撃と同一の構図である。

4 国家公務員の政治的行為の制限は過度に広汎
 国家公務員に対する政治的行為の制限につき、猿払事件最高裁判決(最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁)はこれを全面的に合憲とした。その論理は、(1)「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼確保するため」という目的は正当であり、(2)その目的と禁止される「政治的行為」との間に関連性があり、(3)禁止により得られる利益((1))と失われる利益の均衡がとれているから制限は合憲であり、(4)罰則を課すか否かは立法裁量の問題でありこれも合憲というものである(4裁判官が反対意見を述べている)。先に紹介した自民党プロジェクトチーム答申は、この猿払事件最判に全面的に依拠している。
 しかし、猿払事件最判は、憲法・刑法・行政法・労働法等に携わる圧倒的多数の学者から批判されてきた。たとえば、(1)「行政の中立性」と「公務員の中立性」はイコールではない(室井力)、(2)禁止目的と禁止行為の関連性について「合理的で必要やむをえない限度」の論証がない(室井、樋口)(3)利益考量でも「国民全体の共同利益」が論証なしに優先されている(室井)、などである。
 そもそも、公務員といえども、勤務時間外は一人の国民に過ぎない。24時間肩書きがついて回るわけではないのである。休日に政治活動をしたからとて一体誰の利益が害されるというのか。しかも、わが国の国公法のように公務員の政治的行為を一律に刑罰をもって禁ずるような法規制は、他の先進諸国では例がない。それは自由権に対する過度に広汎な規制として憲法違反というべきである。しかるに、地方公務員も国家公務員と同様の広範な規制を行うべしとするのは言語道断というほかない。

5 弾圧の道具に
 社会保険庁職員の政党機関紙等の配布行為が国公法違反として起訴された堀越事件(東京地裁に係属中)では、裁判の過程で、公安警察がターゲットにした職員の身辺を24時間監視体制下に置いていたことが明らかにされた。そこでは、公安警察は、29日間にわたって、のべ171人の警察官を動員し、当該職員を尾行・監視し、そこでは一般市民までもが、当該職員と接触したというだけで捜査の対象とされたという。背筋の寒くなるような話である。
 そもそも、この事件は、いわゆる裏金事件と合わせて、社会保険庁を廃止あるいは市場化テストの対象とするための政治的キャンペーンの一環として位置づけられた可能性が高いと思われる。そして今後、地方公務員が有事法制の発動に反対したり、憲法改悪に反対したりしたとき、その政治活動に刑罰が科されるとなれば、同様の事態が発生することになるおそれは十分にある。

6 おわりに
 総選挙後の国会において地公法改正問題がすぐに再浮上するかは予断を許さないが、私たちは、このような重大な問題に対して全力でたたかう決意を固めておきたい。
 本稿では紙幅の関係で公務員「厚遇」問題についてふれることはできなかったが、実はこの問題にきちんと反撃することが何よりも重要である。そこで共通の理解が求められるのは、公務員の仕事は何のためにあるのか、なぜ公務員がそれをしなければならないのか、という問題である。「厚遇」という言葉は、こうした議論をすべて捨象してしまう。「構造改革」と同様に、言葉だけが先行するキャンペーンである。私たちはこれに対抗する地力をつけていく必要がある。

【参考】
自治労連弁護団意見書「地方公務員の政治的行為に刑事罰を科すことは許されない」
(2005年5月 http://www.jichiroren.jp/download/200505.pdf
                                            (自由法曹団大阪支部総会・2005年10月1日)


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