私が薬物事件に興味を持った経緯
私は最近、薬物事犯に興味を持ち、現状をなんとか変えられないかと運動もしています。まず、その経過についてお話しします。私が弁護士になってまだ6年ほどで、これまで薬物事件を特別多数扱っているわけではありません。
しかし、私が弁護士になった年に数件覚せい剤事件を扱って以来、刑事手続きの形式的処理に疑問を持つようになり、なんとか意義あるものにならないのか、また、数年ないしは数ヶ月前に執行猶予判決を受けたにもかかわらず再度覚せい剤を使用・所持して刑事手続きを受けている被告人が多数いることにも単に意志が弱いなどと考えて、なんとか再度使用しないようにできないものかと考えるようになり、興味を持つようになりました。もっとも、どうしていいか具体的なものはなく、弁護活動としては、如何に反省させるか、再度使用しないと如何に認識させて、誓わせるかということに力点を置いたものでした。
薬物事件の取り組みへの変化
平成13年当時私が所属していた大阪弁護士会刑事弁護委員会と大阪ダルクとが連携して勉強会を開催し、弁護士向けの啓蒙活動を行うようになりました。そのような活動をしている中で、それまでの認識が全く誤っていることに気づかされ、弁護活動も変えるに至りました。ただ、現在においても弁護活動としては確立したものではなく、まだ模索中ですが、このように至った経過について少しみなさんにも理解してもらいたいと思います。まず、覚せい剤事犯の現状について理解してもらいたいので、そのことについてお話しします。
覚せい剤事犯の現状
関連法規について
薬物を刑事罰の対象としている法律は、覚せい剤取締法、麻薬取締法、あへん法、大麻取締法、毒物及び劇物取締法があります。有名なのは覚せい剤取締法で、確かにこの法律で処罰される人も多いのです。
刑事手続の流れについて
覚せい剤事犯(ここでは、自己使用及び自己使用目的所持をいいます)の場合、捜査機関に発覚すれば、ほとんどの場合逮捕・勾留により合計23日間ほど身体拘束が続いた後に裁判所に起訴され、大阪地方裁判所にでは概ね公
判が1回開かれ、それから2週間後に判決が言い渡されます。その判決の多くは、初犯であれば概ね懲役1年6月で執行猶予4年、2度目懲役1年2から6月の実刑判決であり、それが執行猶予中の再犯であれば、当然執行猶予が取り
消され、前に言い渡された刑期と今回言い渡された刑期の合計の期間受刑することとなります。これを全国の具体的数値で見ると下記のとおりの状況です。
刑事手続きによる処理の状況について
覚せい剤取締法違反の検挙人員(捜査機関が捕まえた人数)を見ますと、平成15年度では1万4797人と高い水準で(第3期乱用時期にあります)、そのうち自己使用及び所持の人数は90%を超えていて、年齢層としては20代、30代の合計が67%に及んでおり、若年化を示しています。
そして、起訴率(検挙人員のうち刑事裁判に訴えられた割合)は、覚せい剤取締法違反の場合、約85%と高く、多くの事件が自白事件なので有罪判決を受けることになり、平成15年末の時点で受刑者の25%に相当し、再犯率を見ても、再度覚せい剤取締法違反で受刑する割合は出所後5年以内の場合約35%、その他の犯罪の場合は約33%であり、同種犯罪を繰り返す危険性が高いといえます。
そして、覚せい剤取締法違反による新受刑者数(刑事裁判の判決により実際に刑務所に行く人数)は,昭和40年代後半から急増し,54年以降は一貫して5,000人を超えています。平成15年は6,774人で,新受刑者全体の21.6%を占めています。また,同年年末現在,受刑者総数の24.8%(1万5,098人)を覚せい剤受刑者が占めています。
再犯の多さについて
さらに、覚せい剤は繰り返し行うといわれていますが、実際にそれは数値にも表れています。平成8年以降に出所した覚せい剤受刑者の5年内再入率は,満期出所者が59.0ないし64.0%,仮出獄者が45.3ないし46.7%となっていて,それ以外の受刑者の5年内再入率(満期出所者はおおむね54%前後,仮出獄者は33%前後)と比較しても高い数値を示しています。
現在,多くの刑務所で,処遇類型別指導の一環として,覚せい剤乱用防止教育が行われています。平成15年度における実施状況を見ると,68施設において覚せい剤乱用防止教育が実施されており,参加人数は3,562人でした。しかし、前記の数値を見るとどれほどの効果を上げているのか疑問といわざるを得ません。
以上の扱いは、覚せい剤を使用・所持した者が、捜査機関に発覚した場合であって、 捜査機関に発覚していない者の方がまだまだ多いのが現状で、いわば予備軍が多数いることから、今後もまだまた以上の扱いが行われていくことが予想されます。
覚せい剤再使用の理由と刑事弁護の新しい視点
これまでの弁護活動
先ほど記載したように私が弁護士になった当初における覚せい剤事件における弁護活動の主眼は、如何に深く反省させ、今後2度と使用しないと強く誓わせるかという点にありました。ただ、覚せい剤事件を扱う中で、再度使用した被告人に会うことがありましたが、その被告人が前の裁判で止めたいと思ったこと、それを法廷で誓ったことは嘘ではないだろうと思うようになり、それでも再度使用した理由が「意志が弱い」ということに求めるにのは疑問を持つようになりました。もっとも、その他の理由はまだ不明でした。
薬物依存症と認識したことによる変化
そのような中で、大阪ダルクのメンバーと勉強会を通じて交流する中で、自分自身も勉強することになり、今度覚せい剤使用が発覚すれば刑務所に行くことを十分認識しながらそれでも使用する理由が理解し、納得できるようになりました。
その理由というのが、「薬物依存症」ということです。単に意志が弱いということではなく、依存症という病気に罹患していることが、薬物使用の理由ということなのです。例えば、ニコチン依存症の人がタバコをなかなか止められないように、また、アルコール依存症の人がお酒・ビールなどをなかなかやめられないように、覚せい剤の依存症の人は覚せい剤をなかなか止められないということなのです(このことは未だ日本、特に司法の中では理解されるに至っていませんが、米国では司法の場でも理解されており、そのことが手続きにも反映されて、ドラッグコートとも呼ばれる手続があります。これは処罰より治療を優先しようという思想の表れです)。
こうして覚せい剤の使用をくり返す人が薬物依存症に罹患しているということを理解するにいたり、弁護活動も根本的に変えるようになりました。
弁護活動のあり方
現在、弁護活動はいまだに確立したものではありませんが、その主眼は、被告人が薬物を使用したことを意志の弱さに原因があると責め、そのことの反省を求めるようなことはしないで、病人であるという認識を前提に治療という視点におくことです。おぼろげながらですが、未だ依存状に罹患していないか依存症が初期の場合には、依存症のことを理解させ、これ以上進行しないよう啓発・支援していくことが必要であり、依存症に罹患していた場合には、進行しないようにするだけでなく、如何に再使用を防ぐかを支援していくことが必要となると思われるので、それに必要な弁護活動が求められるのではないかと思われます。
今後に期待すること
薬物については、社会問題化して久しい中、規制・処罰による対処だけでは解決は困難だと思います。ただ、弁護活動のみで解決する問題ではなく、市民の認識・感覚も変化が必要ではないかと思います。そのためには薬物依存
症について正しい知識を持ってたいおうすることが必要に思われます。
そこで、身近に覚せい剤を使用した方がいたとしても、犯罪者という目で見るのではなく、依存症という病気にかかった人であるという目で見て、対応するようにしてもらいたいと思います。そして、その接し方というのも特別なことをしようと思わず、普通の人と同じように接するようにすればいいので、そのように心がけて接するようにして下さることを期待しています。
参考リンク:大阪ダルク |