事件の内容
地下鉄電車の中で、痴漢犯人と間違われた無実の男性が、高等裁判所で逆転の無罪判決をうけ、ようやく冤罪を晴らすことができた。事件は、一昨年の1月のこと。Aさん(男性)は仕事帰りの夕方に地下鉄御堂筋線に乗っていたところ、突然Aさんの左側にいた女性から痴漢犯人に間違われた。驚いて否定するも興奮した女性は聞いてくれず、逮捕。いくら事実を説明してもきいてくれず、検察も女性の言い分だけを根拠に起訴した。
Aさんの犯行は不可能
スカートをはいた女性の背後から女性の両足の間にAさんの左足を入れたというのが検察官の主張であった。しかし、弁護団で地下鉄車両を再現するなどして調査した結果、@Aさんと女性とは大きな身長差があり、Aさんの足は女性のお尻付近に当たってしまい女性の両足の間には入らないこと、A女性は事件当日の警察調べではAさんはドアの方向を向いていた(これが真実)と言っていたが、その後の供述で、Aさんの身体の向きをAさんが犯行をしやすい方向にどんどん変更していること、B女性は後ろをよく見ることなくAさんの方向だけを振り向いた時点でAさんを犯人だと言って捕まえたことが判明し、Aさんとは別の真犯人の存在の可能性が高くなった。
一審の裁判所(裁判官1名)は上記不合理な点については何らの説明もなく、警察・検察と同じく女性の言い分のみを根拠に有罪としたが、高等裁判所(裁判官3名)は、女性の言い分はAさんを犯人とする方向で無理に変更されており到底信用できないとして無罪判決を言い渡し、確定した。
手抜き捜査
痴漢は許し難い犯罪である。そのことと、誰が真犯人かというのは全く別のことである。被害を受けた女性は気が動転していて正確な状況確認ができないことも多い。他の刑事事件を考えてもらえばよくわかるが、被害を受けたという人の説明だけで警察が誰かを捕まえて検察が起訴することは普通はない。
ところが、このようなことが痴漢事件の場合には横行している。「痴漢事件の特殊性からこれは仕方がない、痴漢事件は女性の供述しか証拠がない」、と思われているかもしれないが、それは実は大きな誤解である。例えばこの事件でも女性のスカートと、犯人のズボンは地下鉄2駅間という長時間接触しており、お互いの服に他方の繊維片がたくさん着いているはずである。手による痴漢の場合も、犯人手には被害女性の衣服の繊維片が付着する。それは他の犯罪で通常行われる鑑定によって容易に判明する。また、痴漢事件の周囲には多くの目撃証人がいたはずなのに、ひき逃げの交通事故のような看板を立てての証人探しの手間も警察・検察は行わずに、ひたすら女性の供述のみに寄りかかって起訴している。
痴漢被害者を守り、痴漢冤罪の被害をなくすために
自らの痴漢被害の犯人を正しく罰して欲しいという女性被害者を大切に扱うというのは、女性の説明をそのまま信用することではなく、女性の説明を鑑定等の客観証拠によって裏付け、これを支える捜査を行うことである。それを怠った現在の「手抜き捜査」と司法によるその容認は、自らが突き出した男性を客観的証拠の支えなく、自分の供述のみで犯人と立証する責任を女性に押し付けている。このような状態が続く限り、女性は、実は曖昧な記憶しかないのに事実とは異なる無理な供述をしてしまいかねない。手抜き捜査が続けられる限り、あなたやあなたの家族が突然Aさんのように、真犯人と間違われて逮捕・起訴される危険がある。冤罪に苦しむAさんと1年10ヶ月間一緒にたたかってきてこのことを強く感じた。
(大阪法律事務所ニュース2005年1月号)
参考リンク 「取扱事件の説明」→「刑事」も参照ください。 |