事務所案内 弁護士紹介 法律相談と費用のご案内 取扱事件の説明 情報発信 リンク集
HOME > 情報発信 > 弁護士の事件簿 >交通事故被害者が犯罪者に!?

交通事故被害者が犯罪者に!?(弁護士 杉本吉史)

事件受任の経緯
  D君の相談を受けたきっかけは、島根県松江市で開業している私の司法研修所時代に同期だった弁護士の紹介でした。
  D君は、島根県出身で大阪の大学に通う少年。島根からわざわざ来阪したお母さんを伴っての相談でした。
  事件は、D君が原動機付自転車に乗って交差点を通過しようとしたときに、前方から交差点に進んできた乗用車が右折してきて衝突。D君は頸部捻挫や左肩打撲などの怪我を負う交通事故でした。
  ところが、D君が事故直後に実況見分に来た警察官から事業聴取を受ける中で、交差点の約30メートル手前で黄色信号を見たのに、そのまま交差点に進み、右折してきた自動車に衝突したという調書が作られてしまったのです。
  D君は家庭裁判所で、道路交通法違反事件としての審判を受け、その場で黄色信号を見たのは交差点の停止線付近であると裁判官に訴えたのですが、黄色交通短期保護観察という処分を受けてしまいました。
  少年と審判に同席した母親は納得がいかず、先の島根の弁護士に相談したところ、「そんなのは、簡単にひっくり返りますよ。」とアドバイスを受け、私の紹介を受けたということでした。すぐに家庭裁判所に事件の閲覧に行き、書記官に抗告(審判への不服申立て)をする旨を告げると、書記官から「本当ですか。」とびっくりされました。めげずに閲覧を始めると、審判の記録上では少年は、ボーとして走っていて、ぶつかって初めて相手に気付いた、黄色でもかまわないが通過しようと考えた、私は事実を認めても良いと考えている、などとする審判調書が作成されていました。
  私は、そんなに簡単と言うのなら、自分で弁護をやってほしいと半分「恨み」ながら、事件を始めることとなりました。

現場へ赴いて分かったこと
  そこでまず私は、事故が起こった交差点を見に行きました。そこで気付いたことは、交差点が思ったよりも先の見通しが良く、D君がそれほど前から黄色信号を見た上で交差点に進入するほどのスピードを出しておれば、乗用車の運転手としても危険を感じたと思われることと、黄色信号の表示時刻が捜査報告書の3秒もないと思われたことでした。
  また、この事件で幸いだったことは、少年の原動機付自転車が加入していた自動車保険の担当者が、事故直後に現場に赴いて調査したところ、担当者も乗用車の運転手の供述が現場の状況と合致しないと気づき、運転手との間で過失割合が運転手9対少年1の示談を成立させていたことでした。
  抗告ではこれらの点を指摘し、運転手の取り調べを請求し、高等裁判所で運転手の取り調べが実施されることとなりました。

加害者を法廷に
  高裁の法廷に出てきた運転手は、警察に嘘を言っていたとは認めませんでしたが、運転手が現場で警察に説明をしていた交差点内で一旦停止したと述べていたところ、なぜ停止したのかについて全く説明ができず、また、なぜ自分が過失9割の示談に応じたのかについてもほとんど答えられませんでした。
  その取り調べの結果、高裁は黄色信号無視の罪を認めた審判に、重大な事実誤認があるとして取消の決定を出してくれました。そして、最終的に、再度の家裁での審判で、故意及び過失による黄色信号無視の罪について、いずれも合理的な疑いが残るとして、保護処分に付さない旨の決定を取ることができました。

少年審判について考える
  このように、交通事故の被害者であった少年は、無実を勝ち取ることができたのですが、本来であれば、少年審判で無実を訴えた少年の訴えに耳を傾け、加害者の取り調べを実施しておれば、家裁の裁判官としても少年の訴えが正しいことは分かったはずです。それを、無理やりに罪を認めさせる方向で審判を運営する、今の少年審判のあり方に大きな問題があります。
  現在、少年審判において、犯罪被害者の傍聴を認める方向での検討が進められていますが、現在の審判の事実認定のあり方や、非公開原則についての再検討が今求められているのではないでしょうか。


 〒542-0012 大阪市中央区谷町九丁目3番7号 中央谷町ビル2階 (06)4302-5153(代)